乳児院での仕事に興味を持った時、多くの人が知りたいと思うのは、その具体的な日常でしょう。求人票の文字だけでは伝わらない、現場の空気感、仕事の厳しさ、そして、そこでしか味わえない感動。ここでは、ある乳児院で働く職員の一日を追いながら、そのリアルな姿を描き出します。保育士で勤務することがいきがいそれは、絶え間ない緊張感と、深い愛情が交錯する、「命の営み」そのものの記録です。 朝7時。夜勤の職員からの申し送りで、日勤の一日が始まります。「Aちゃんは昨夜少し熱っぽくて、夜泣きが激しかったです」「B君はミルクをよく飲んで、朝までぐっすりでした」。一人ひとりの夜間の様子を詳細に聞き取り、電子カルテと照らし合わせながら、今日一日のケアの方針を頭に叩き込みます。フロアに響く「おぎゃあ」という泣き声を合図に、子どもたちの起床、検温、おむつ交換、着替え、そして朝食の介助と、怒涛の時間がスタートします。言葉を話せない子どもたちの機嫌や体調を、表情やしぐさから読み取り、きめ細やかに対応していきます。 午前10時。比較的体調の安定している子どもたちは、プレイルームで過ごします。職員は、子どもたちの発達段階に合わせた遊びを提供しながら、その関わりの中で発達のアセスメントを行います。寝返りの練習をする子、おもちゃに手を伸ばす子、その一つひとつの成長が、職員にとっての喜びです。同じ頃、別の部屋では、理学療法士が脳性麻痺のある子のリハビリを行っています。その隣では、看護師が医師の回診に同行し、医療的なケアが必要な子の処置にあたります。このように、様々な専門職が密に連携しながら、それぞれの子どもに最適なケアを提供していくのが、乳児院の日常です。 午後1時。子どもたちが昼寝に入ると、職員はようやく一息つけますが、休む暇はありません。この時間を使って、日々の記録作業や、個別支援計画の見直し、そして職員間のカンファレンスが行われます。「Cちゃんが最近、人の顔をじっと見つめるようになりました。愛着が育ってきているサインかもしれません」。こうした日々の観察から得られた情報を共有し、チームとしての子どもの理解を深め、今後の支援方針を話し合います。午後3時、子どもたちが目覚め、おやつの時間、そして入浴と、再び慌ただしい時間が流れます。夕方には、家庭復帰を目指す親子の面会に立ち会うこともあります。ぎこちないながらも、我が子を愛おしそうに抱きしめる親の姿に、胸が熱くなります。 午後7時。日勤の職員が夜勤の職員に詳細な申し送りをし、帰路につきます。しかし、乳児院の営みは終わりません。夜勤の仕事は、子どもたちを寝かしつけた後も続きます。定期的な見回り、授乳、おむつ交換はもちろん、膨大な量の洗濯物をたたみ、哺乳瓶を消毒し、翌日の準備を整えます。深夜、激しく泣き叫ぶ子の背中をさすりながら、一緒に夜が明けるのを待つことも一度や二度ではありません。この仕事は、体力と精神力の限界を試される、過酷な仕事です。しかし、それを乗り越えるだけの、かけがえのない瞬間があります。人を怖がって決して目を合わせなかった子が、初めて笑顔を見せてくれた時。誰にも心を開かなかった子が、そっと膝の上に乗ってきた時。そして、様々な困難を乗り越え、新しい家庭へと無事に巣立っていく後ろ姿を見送る時。その感動は、すべての苦労を吹き飛ばし、「この仕事を選んでよかった」と心から思わせてくれるのです。