保育士になって七年目の春、私は一種の燃え尽き症候群のような状態にありました。毎日の繰り返しに感じられる業務、増えていく責任。子どもたちは可愛くて、仕事にやりがいは感じているはずなのに、心のどこかで「何か」が足りないと感じていました。私の保育は、ただマニュアルをなぞっているだけではないか。そんな自己嫌悪にも似た感情が、静かに積もっていったのです。そんな時、私の心を動かしたのは、一冊の絵本と、一人の子どもの姿でした。人前に出るのが苦手で、いつも輪の外にいたAちゃん。その子が、私が何気なく読み聞かせた絵本の世界に、瞳を輝かせて没頭していたのです。その姿を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けました。絵本には、子どもの心を解放し、世界を広げる無限の力がある。私はその力を、もっと専門的に学び、引き出せるようになりたい。保育士のお仕事 奈良で発見そう強く思い、インターネットで情報を集める中で「絵本専門士」という資格の存在を知りました。働きながらの挑戦には、正直不安しかありませんでした。シフト勤務で不規則な毎日の中、膨大な量の課題レポートやスクーリングをこなせるだろうか。家族に負担をかけるのではないか。何度も迷いましたが、「今動かなければ、きっと後悔する」という思いが勝り、挑戦を決意しました。そこからの日々は、まさに戦いでした。通勤の電車では参考文献を読み込み、子どもが寝静まった深夜にレポートを書く。休日は図書館にこもり、絵本の歴史や児童心理学について学びました。何度も心が折れそうになりましたが、同じ目標を持つ全国の仲間たちとのオンラインでの交流や、職場の同僚たちの「頑張ってね」という温かい声援が、私を支えてくれました。そして何より、学んだ知識をすぐに現場で試せる環境が、最高のモチベーションになりました。子どもの発達段階に合わせた選書を心がけると、子どもたちの反応が面白いほど変わりました。読み聞かせの際に少しだけ間を取ったり、声のトーンを変えたりする工夫で、物語への没入感が格段に深まるのを実感したのです。長いようで短かった養成講座を終え、晴れて絵本専門士の認定を受けた時、私は保育士として新しいスタートラインに立ったような清々しい気持ちでした。資格取得後、私の保育は劇的に変わりました。単に絵本を読むだけでなく、その世界を遊びに展開させたり、子どもたち自身が物語を創作する活動を取り入れたり。絵本を媒介とすることで、Aちゃんのように自己表現が苦手だった子どもたちが、少しずつ自分の気持ちを言葉にできるようになっていきました。保護者懇談会で絵本選びの相談を受けることも増え、子育ての悩みに寄り添う新たなアプローチも手に入れました。今、私は胸を張って言えます。スキルアップのための学びは、子どもたちを豊かにするだけでなく、保育士である私自身の人生をも豊かにしてくれた、と。あの時の一歩が、私にこんなにも素晴らしい景色を見せてくれるとは思いもしませんでした。もし、かつての私のように、現状に迷いや焦りを感じている方がいるなら、伝えたいです。勇気を出して一歩踏み出せば、そこにはきっと、あなたの可能性を広げる新しい世界が待っています。
私が絵本専門士になって見えた新しい景色