私は、奈良県の夜間保育士として働いて5年になります。この仕事を始める前、友人からは「夜勤なんて大変じゃない?」「生活リズムが崩れそう」と、心配されることがほとんどでした。確かに、この仕事は、体力的に、そして精神的に、決して楽なものではありません。しかし、日中の保育では決して味わうことのできない、深く、そして温かい「やりがい」が、ここには確かに存在するのです。ここでは、私が日々感じるこの仕事の喜びと、それに向き合うために必要な覚悟について、お話ししたいと思います。 この仕事の最大のやりがいは、子どもや保護者と、家族のように深く、濃密な関係を築けることです。夜という時間は、人を素直にさせ、心の距離を縮める不思議な力があります。日中の喧騒から離れ、少人数の子どもたちと、まるで我が子のようにじっくりと向き合うことができる。夕食を共にし、お風呂に入れ、寝かしつける。その一つひとつの営みは、子どもとの間に、揺るぎない「愛着」を育んでいきます。最初は心を閉ざしがちだった子が、少しずつ私を信頼し、膝の上で安心して眠ってくれた時の、あの小さな寝息と温もり。それは、どんな言葉よりも雄弁に、この仕事の喜びを伝えてくれます。 保護者との関係も同様です。仕事を終え、疲れ切った顔で子どもを迎えに来る保護者。その日の子どもの様子を伝え、「お仕事お疲れ様でした」と一言添えるだけで、保護者の表情がふっと和らぐ瞬間があります。「先生たちがいてくれるから、安心して働けます」。そう涙ながらに感謝された時、私は、この仕事が、単に子どもを預かるだけでなく、その家庭の生活そのものを、根底から支えているのだと実感します。私たちは、子育ての悩みを共有し、共に子どもの成長を喜ぶ、保護者にとっての「戦友」のような存在になれるのです。社会の片隅で、誰かの人生を力強く支えているという確かな手応え。これこそが、夜間保育士としての、何よりの誇りです。 しかし、そのやりがいの裏側には、常に厳しい現実と向き合う「覚悟」が必要です。まず、自分自身の「心身の健康管理」です。夜勤を含む不規則な生活は、確実に体に負担をかけます。休日は意識的に体を休め、栄養バランスの取れた食事を心がけ、自分なりのストレス解消法を持つこと。プロとしてこの仕事を続けるためには、徹底した自己管理が不可欠です。また、精神的な負担も決して軽くはありません。夜間保育を利用する家庭の中には、貧困や虐待といった、深刻な問題を抱えているケースも少なくありません。子どもの心身に残された傷跡を目の当たりにし、何もできない自分の無力さに、胸が締め付けられる夜もあります。私たちは、専門職として冷静でなければなりませんが、その子の悲しみに共感し、心を痛める一人の人間でもあります。この感情のバランスを保ち続けることは、時に非常に困難です。 同情と支援の境界線を見極めること、そして、自分一人で抱え込まず、必ず同僚や上司に相談し、チームとして対応すること。それが、自分自身を守り、結果として子どもを守ることに繋がります。夜間保育の仕事は、子どもたちの「光」の部分だけでなく、その背景にある「影」の部分にも、深く向き合わなければならない仕事です。それは、きれいごとだけでは済まされない、人間の生々しい現実に触れる仕事です。その全てを引き受ける覚悟を持った時、初めて、この仕事の本当の尊さが見えてくるのだと、私は信じています。
夜間保育士になってわかったこの仕事のやりがいと覚悟