「医療保育士」という言葉に、どのような姿を思い浮かべるでしょうか。白衣を着た保育士、あるいは病院で働く保育士。そのイメージは、決して間違いではありません。しかし、その役割は、単に「医療現場にいる保育士」というだけにとどまらない、極めて高度な専門性を要するものです。特に奈良の医療保育士とは、病気や障がいを抱え、特別な支援を必要とする子どもたちに対して、保育の専門知識と、医療に関する深い理解を基に、心身の健やかな発達を支える専門職です。彼らは、治療や療育の場において、子どもと医療スタッフ、そして家族との間を結ぶ、かけがえのない「架け橋」となる存在なのです。 医療保育士の最も重要な役割は、病気や障がい、そしてそれに伴う入院生活や治療といった非日常的な環境が、子どもの発達に与える悪影響を最小限に食い止め、その子らしい「育ち」を保障することです。子どもにとって「遊び」は、学びであり、コミュニケーションであり、生きる力そのものです。医療保育士は、この「遊び」を最大の武器として、子どもたちの心と体を支えます。例えば、小児病棟では、治療による痛みや不安を抱える子どもに対し、遊びを通して恐怖心を和らげ、前向きに治療に取り組む意欲を引き出します。これは、単なる気晴らしではなく、治療的な意味合いを持つ、専門的な介入です。 その具体的な仕事内容は多岐にわたります。まず、子どもがこれから受ける検査や処置について、絵本や人形を使って分かりやすく説明し、心の準備を促す「プレパレーション」。これは、子どもの知る権利を守り、医療への主体的な参加を促す重要な関わりです。また、注射などの痛みを伴う処置の際に、歌や遊びで気をそらすことで苦痛を緩和する「ディストラクション」も、医療保育士の巧みな技術の一つです。さらに、長期入院によって生じる学習の遅れを支援したり、季節の行事を通じて入院生活に彩りを与えたりと、子どものQOL(生活の質)を高めるためのあらゆる工夫を凝らします。 医療保育士が活躍する場は、病院の小児病棟だけではありません。むしろ、そのフィールドは、社会のニーズの高まりと共に、ますます広がりを見せています。例えば、知的障がいや身体障がいのある子どもたちが通う「児童発達支援センター」や「放課後等デイサービス」、重度の障がいを持つ子どもたちが入所する「重症心身障害児施設」などは、医療保育士がその専門性を大いに発揮する場所です。こうした場では、個々の障がいの特性や発達段階に合わせた専門的な「療育」が求められ、医療的ケア(経管栄養や喀痰吸引など)が必要な子どもへの対応も日常的に行われます。医療保育士は、理学療法士や作業療法士、看護師といった多職種の専門家と緊密に連携しながら、一人ひとりの子どもの可能性を最大限に引き出すための支援計画を作成し、実践していくのです。 そして、支援の対象は、常に子ども本人だけではありません。我が子の病気や障がいに直面し、不安や葛藤を抱える保護者に寄り添い、その気持ちを受け止め、共に子どもの成長を支えていく「家族支援」も、医療保育士の極めて重要な役割です。医療保育士は、医療と福祉、そして教育という異なる分野を横断し、子どもという存在を全人的に捉える視点を持つ専門職です。病気や障がいがあっても、すべての子どもには、その子らしく輝き、成長する権利がある。その権利を守り、未来への希望を紡いでいく。それが、医療保育士という仕事の、何よりの使命であり、尊さなのです。
医療保育士とは?保育と医療の架け橋となる専門職